2025/06/16
オーダーキッチンSRのデザイン(計画編vol.1/4)【建築家の頭の断面図2025】
現在進行中のオーダーキッチンショールームがかなりコンセプチュアルであり、面白いものになりそうなので、計画段階から何を考えてどう決まっていったかを書き留めておこうと思う。
場所は名古屋城にほど近い四間道のはずれ、円頓寺商店街の入り口付近にある「蔵」である。
計画地外観
この蔵は名古屋市の認定地域建造物資産にも設定されている「杉本家 蔵」という建物であり、大正4年に建てられた土蔵造 地上2階建ての建物だ。この蔵は高い石垣の上に築かれており、材料として栃木県宇都宮市の大谷石が使用され、市内では希少な建物である。以前はこの蔵に懐石料理店が入っていたが、今回オーダーキッチンのショールームに改装することで依頼があった。
住宅も店舗もやっているC.D.WORKERSに声がかかったことは非常に嬉しいことだが、蔵の良さを活かしながらハイエンド層向けのキッチンの展示をするということで、蔵の内装を「継承する」と「変革する」を共存させることで当初頭を悩ませた。
蔵や古民家などを店舗にすることは日本全国ではよくあることで、京都のブルーボトルコーヒーとかは当時話題にもなり、観光客でにぎわったのをよく覚えている。
単純なアプローチはこういった伝統的な建物の壁などを活かしながら、キッチン、厨房をいかにシンプルかつ無機質にするかがセオリーだと思うが、果たしてそれが今回のプロジェクトのデザインアプローチとして正しいのかをずっと考えていた。
というのもこれから名古屋を拠点としながら東京に進出してハイエンド層を狙い、全国に広げていきたいというクライアントの想いを考えると、名古屋ではあまり無いが、全国では割と定番なこの伝統的な建物との対比を狙ったデザインアプローチでは感度が高い方に対してマッチするのかが疑問だった。
なのでまずはいつも通り、クライアントとしっかりブレスト、そしてコンセプトメイキングを行い、クライアントの未来の事業計画の可視化を図った。
全国でのブランド力と東海圏のブランド力の違いを可視化
オーダーキッチンだけではなく、インテリア家具、ファッションブランドなどプロモーションの違いやHP構成、商品展開の違いを比べて関東と東海の違いを示した。これには理由がある。「名古屋飛ばし」という言葉を聞いたことがある方は少ないくないと思う。東京の次は関西、そして福岡にするか、名古屋にするか・・・要は店舗展開含めてあらゆる流行は名古屋を飛ばして関西にいくという皮肉の言葉だ。ただ実際様々なショールームやファッションブランドはこの流れに従っている。
名古屋に住んでいると若干切なさも感じるが、名古屋自体が閉鎖的な印象を感じるのもまた事実。
このことは消費者や我々のような商品を選ぶ建築家からすると不便に感じるが、プロダクト事業者からすると「競合が少ない」というメリットもある。
立場が違えば考え方も違うのだろう。
現にハイエンドの家具といえば名古屋のみで検討するなら「カッシーナ」か「アルフレックス」が定番だ。
アルフレックス名古屋 | ショップ情報・営業時間を見る | arflex(アルフレックスジャパン)
オーダーキッチンに関しても「Dada(ダーダ)」や「Boffi(ボッフィー)」、そしてタキマキさんの家で認知度が増した「bulthhaup(ブルトハウプ)」などは名古屋にはない。
Boffi Official Website - Made in Italy Furniture Brand
知名度があるのはカッシーナ名古屋ショールームに付随している「ジーマテック」か「クッチーナ」が少し抜きに出ているくらいだ。
カスタムメイドキッチンのクチーナ_CUCINA|キッチンから世界を変える
その他は東海圏では知名度のある各オーダーキッチンブランドがひしめき合っているが、それも数社程度である。
今回のクライアントは早い段階で全国規模の知名度を獲得したいという想いがある。ここで私が考えていたこと、それは下手に知名度が上がったところで本質的な人気とは繋がらないということ。そういう視点でクライアントの会社、製造体制をヒアリングした。
建築家は常に「俯瞰(ふかん)」でものを見る。
忖度なくクライアントの足りているところ、足りていないところを考えた。
オーダーキッチンで大切なこと
「人」「製造」「コスト」「デザイン(商品)」
この4項目が揃ってクオリティの高いものが提供できると位置付けた。
この4項目はそれぞれ密接に絡み合っている。
この絡み合った項目のスタートは「人=人間力」だと思う。
知識、経験、話し方から提案、情報発信のスピーカーである人は非常に重要だ。どれだけ良い音楽があってもスピーカーが悪いと良いものと認識できない。
またオーダーキッチンの性質上、提案がデザイン(商品)に直結するため、意匠だけでも機能だけでもクライアントには響かない。
ほとんどの場合、設計事務所であれば建築家が意匠的な指示をするため、実はオーダーキッチン業者はキッチンを意匠的にデザインすることに慣れていない。材料や流行が分かっていたとしても、デザインを俯瞰でみること、要は空間に合いながらキッチンとしての存在感を出すことが苦手な人が多い。この意匠設計を解決しながら動線設計、機能設計をすることが大事だろう。
そしてこのデザインと密接に関係する2つの項目、それは製造とコストだ。
予算が無限にあれば何でもできるが、決められたコストに納める力、そして製造のしやすさ、メンテナンスのしやすさなどが関わってくる。
強い製造能力があり、そこの士気が高ければハイエンドに響くキッチンはできるだろうと思う。
話を戻すと今回のクライアントはこの4項目のうち、3項目をすでにクリアしていると思う。
人:個人差はあるが、自信を持った提案、機能説明、そしてコミュニケーション能力は高い。
製造:自社に大きな製造工場を持っているため、あらゆるデザインに挑戦しやすい環境にある。また安定して供給できる生産能力もある。
コスト:自社製造、自社施工のため、同じ商品内容であれば他のオーダーキッチン業者よりコストが安い印象だ。そのためメーカーのハイクラスキッチンとかなり近い金額で納まる。もちろんオーダーキッチンの方がメーカー品より高いのは事実だがそれでも手が届かないということでもない。
この3項目はすでにクリアしているため、残すは「デザイン(商品)」である。
誤解があってはいけないので付け加えると、商品が悪いわけではない。
むしろ満足できるクオリティには既になっている。
このクライアントも急がなければ確実に求めているハイエンド層を多く受注できるだろう。ただこの「デザイン(商品)」というものに対して誰が意匠デザインをしているかが問題だ。それは我々設計者やインテリアコーディネーターということ。
住宅系のデザイン従事者はまだまだキッチンを機能よりで考えすぎる傾向があるからだと思う。
「キッチンはインテリア」
要はソファやダイニングテーブルと同じようにキッチンは置き家具のようなデザイン性が必要だということだ。
この「デザイン(商品)」を解決するためにショールームに展示するたった1台のキッチンに対してシンプルでありながら意匠的に優れたキッチンを計画することで、この企業のアイコンにすることが重要だと考えた。
まずは試しに様々な形や色でキッチンを配置して見て既存の蔵の内装とのマッチングをパースで試してみようと考えた。
既存蔵内装
検討案1
検討案2
検討案3
検討案4
全国での展開ということは当然すべての人がショールームに来てくれるわけではない。HPを見たり、SNSを見て人が目に留める時間を増やす。店舗と住宅ではデザインの仕方が違う。また小規模建築と大規模建築もかなり違う。
今回はショールームだが店舗として捉えた場合、小規模であればあるほど2次元の見え方が重要になる。簡単に言うと写真映えする空間ということだ。
この考えを念頭に置きながらわずか20畳程度のスペースに1台のキッチンと打ち合わせスペースを設置する。
パースをつくってみたが・・・
さぁ、どうしよう・・・
もっと全国でのブランディングと東海圏のブランディングを掘り下げようと考えた。
vol.02へ続く