2025/06/17
オーダーキッチンSRのデザイン(計画編vol.2/4)【建築家の頭の断面図2025】
オーダーキッチンショールームを計画するにあたり、東海圏で展開するブランディングについて考える。
ボッフィーやバルクッチーネのHPを見るとシンプルでありながら大豪邸にありそうなキッチンが載っている。
Boffi Official Website - Made in Italy Furniture Brand
全国展開を視野に入れているクライアントだが、すぐにこのラグジュアリーブランドと競合するかというと難しい。
また東海圏の豪邸と東京の豪邸はかなり差があると思う。
ここを調べることですぐに全国というわけではなく、東海圏でのブランド力を上げて全国への一歩を踏み出せるのではと考えた。
コンセプトメイク抜粋
まずは東海圏の土地価格・高級住宅市場を調べてみると、東京の地価は愛知の約2.8倍の差がある。
不動産業者にヒアリングすると
「東京は4億以上が売れるが、名古屋は2億までが売りやすい」
「名古屋は100坪、2億までが売れる」
こういう言葉を聞いた。
また名古屋の高級住宅街としては「南山町」「八事」「星が丘」「白壁・主税町」「覚王山」などがあるが、基本的に東名古屋に集中しており、坂道が多くビルトインガレージ採用率も高い。それに伴い建物の構造はRC造、S造、木造と様々である。
昨今建築資材の高騰が激しいので建物金額もかなり上がっている。
つよいこだわりが無ければインテリアにかける予算もほどほどにするだろう。
それではオーダーキッチンは?
キッチンは建築でもありインテリア。
この微妙なラインをどうデザインするか、どう訴求するかはBtoCではなく、BtoBtoCも考えなければいけない。ダイレクトにクライアントに訴求できれば良いが、オーダーキッチンはそうではない。途中で「B」が入ることが多い。僕たちのような設計事務所の設計者、ハウスメーカーや工務店の営業、設計、インテリアコーディネーターとの折衝も多い。そう考えた場合、クライアントに響くだけではなく中間の「B」に響かなくてはならない。
これは最終のtoCからしたら嫌な話かもしれないが、よっぽどこだわりのある中間の「B」でない限り、
「予算に納まればいい」
「既製品より価値を高く思ってもらえればいい」
という思考の人が多い。
今回のショールーム計画にあたり、中間の「B」にもささり、キッチンは建築・インテリアにおいて重大な要素になっていることを訴求する場でもあるため、そこにも伝える必要がある。
僕自身もインテリアにこだわる設計事務所として住宅も設計しているため、キッチンの重要性は重きを置いている一つだ。
これを同業に伝えるには空間でいかにキッチンがインテリアの要素を締めているか、またキッチンだけが主張して空間にマッチしていないことの違和感を伝えれるかが重要だと思う。
それを加味してデザインしなければいけないが・・・・悩ましい。
また東海圏のハイエンド層に対しての訴求はどういうものが必要かも考えなければならない。
そのヒントは百貨店にあると思う。
百貨店の店舗別売上高ランキング 2024年度、過去最高相次ぐ - WWDJAPAN
2024年度のデータだが、全国の百貨店売上から考えると1位は伊勢丹新宿、2位は大阪阪急本店、3位はJR名古屋高島屋という情報がある。名古屋飛ばしの地元名古屋の百貨店が3位という理由は、どうやらラグジュアリーブランドに代表される高級品のフロア増床が起因するところらしい。
(ルイヴィトン・グッチ・ジミーチュウ・プラダ・ディオールなど)
どうやら名古屋の市民性を考えると「わかりやすいブランドが好き」ということらしい。
これは主観だが「グッチ」「シャネル」「ディオール」「ロエベ」この辺りは名古屋では人気だ。
もちろん「マルジェラ」「ジルサンダー」とかも人気だが、東京ほど需要はないイメージだ。
名古屋はわかりやすいハイブランドを好む人が多いということから、家具においてもまずは名古屋にあるカッシーナ、アルフレックスでインテリアを検討する人が多い。このことからオーダーキッチンにおいてもボッフィーやバルクッチーネまではいかず、東海圏のオーダーキッチン業者で検討をスタートすることもうなづける。
ではクライアントをどの位置にもっていくことが重要か・・・
それは第一に東海圏のオーダーキッチン業者以上、全国のラグジュアリーブランド未満のブランド力をつけるためにこの名古屋のショールームを計画することが重要だと考えた。簡単に言うと・・・
「とっつきにくいまでいかず、軽くも見られないデザイン」
これが必要だろう。
しかも通常ショールームだといくつものパターンを見ながら「選べれる」ということが顧客満足度に繋がるが、今回は面積が小さく1台しかキッチンを置けない。
空間は「蔵」・・・だいぶ個性が強い。
奇抜すぎないが他にはあまり無いキッチン・・・
ひとつの回答としてシンプルな石の塊を表現しようと考えた。
キッチンデザイン案
眼から入る蔵という空間の情報量が多いので、やはりシンプルにするのはマストだろう。その中で単純に長方形のアイランドキッチンを置くだけでは、悪くはないがキッチンに目がいくものではない。一般住宅であれば空間バランスを考えてこの単純な長方形キッチンを選ぶことも問題ないと思うが、ここはショールームだ。わかりやすいブランド、デザインが好きな東海圏のハイエンド向けに対して、シンプルなキッチンでは差別化が弱くアイコンにならないので、このキッチンブランド名が石の名前からきていることも相まって、少しだけプラスのデザインをしていこうと考えた。
これも東京を中心に全国展開するラグジュアリーキッチンブランドと東海圏のキッチンブランドのHPの差から導き出した答えである。ヴァルクッチーネやボッフィーなどのホームページではキッチンを訴求するわけではなく、空間を訴求しているのがわかるだろう。対して名古屋の各オーダーキッチンブランドを見ると、キッチン主張が多い。要は「モノ」の訴求である。どちらが良いかは別としてキッチンを見たいからキッチンを訴求するといういたって単純な考え、わかりやすさみたいなものが東海圏ではうけるのではないだろうか。
ファッションブランドのHPも似ている。全国展開しているエルメス、ルイヴィトンのHPは「モノ」というより商品を使いながら「空気感」売りをしている。
エルメスの公式オンラインストア | Hermès - エルメス-公式サイト
逆にマルジェラ、ジルサンダー、ロエベなどは商品をトップページに出していることが多い。
Jil Sander | Official Online Store
マルジェラ等がブランド力が劣っているわけではなく、戦略の違いなのではと思う。エルメスくらいのハイブランドは歴史や文化をひっくるめて訴求しているし、それができる実績もある。この辺りは企業規模、歴史からなせる業だろう。この空気感売りみたいなことを東海圏で展開した場合、名古屋のハイエンド層の建物にかけるお金から考えると少しズレる可能性がある。
なので今回の計画も蔵という雰囲気だけではなく、少しだけキッチンも他とは違うデザインを訴求することがよいと考えた。
ただ、本当に少しだけのプラスのデザイン・・・
ここで話は逸れるが、日本のキッチンハイブランド「リネアタラーラ」のWEB記事を以前見たことがある。
そこには自社の特徴が書いてあった。
自社工場を持っている。
顧客とじっくり会話する。
40代〜50代のファミリー層がターゲット。
設計事務所や顧客からの紹介が中心。
とのことだ。
またキッチンの予算についてだが建築費の5〜8%が目安にしている。
5000万の家なら、250〜400万、1億の家なら500万〜800万。
私の感覚からするとキッチンに強いこだわりのある人はだいたい10%のイメージである。
メーカーキッチンならリーズナブルなもので50万からあるのに対して、この金額。やはり高い。土地から購入する人も多い中で、名古屋のハイエンド層の建物価格は1億〜2億の間が多いと言われている。統計的には一桁パーセントである。
このクライアントはすでに名古屋郊外にミドル層向けのショールームを持っており、新たにハイエンド向けのショールームを四間道に造ることを考えると、ターゲットを絞ってブランド力を高める造りは正解な気がする。
蔵を改装するという点、他とは少しだけ違ったシンプルなキッチン、この2つだけでデザインは完成するが・・・
蔵と石の塊
もう一段間踏み込んでデザインを考えた方がこれから全国展開を目指すクライアントにとってプラスになるのでは・・・
何が良いか・・・「照明かも」
vol.03へ続く