CURIOUS

CURIOUS design workers

×

  • HOME
  • >
  • BLOG
  • >
  • オーダーキッチンSRのデザイン(計画編vol.3/4)【建築家の頭の断面図2025】

BLOG

2025/06/23

オーダーキッチンSRのデザイン(計画編vol.3/4)【建築家の頭の断面図2025】

  

 

 

 

もともと初期投資をかなり抑えたいという要望を頂いていた。
こういう場合に室内に全て壁や天井、床を造り変えて、空調や給排水を整備すると、それだけで予算オーバーだ。
C.D.WORKERSに依頼してくれた意図としては予算が厳しい中でも何か他とは違う新しいデザインを求めているからだろう。
こういう時はコストの振り分けで全てが決まる。
コストをかけるところと、かけないところのメリハリをしっかりすることが重要だろう。特に店舗の場合はなおさらだ。
蔵という空間に対してあまり邪魔をせず、且つ少しだけ主張をする絶妙なラインのデザインは何なのか・・・

一つの可能性として「照明」に着目した。

この建物は2階建てだが、蔵の構造上道路から1階の床まで2mくらいはある。そこからさらに階段を上って2階に上がり打ち合わせスペースとなる。
しかも蔵の階段は急だ。

 

 

           左:道路から1階へ 真ん中:1階ホール 右:1階から2階へ

 

これを全てやり直すには相当なコストがかかるため、基本さわれない。
ハイエンド層の年齢から考えると階段はしんどい。
であれば、階段を上るという行為を少しだけ楽しくしてみたらどうか。
例えば2階まで上がる動線を光のラインで誘導してみたらどうか。
光は空間をあまり邪魔しない。
色や素材と光源は視覚的に別物と認識されることも多い。
こういった光の動線によって急な階段を上るというネガティブなことを、光の先にあるものは何かという期待に変えることが出来ると考えた。
ではそれを実現できる照明は何があるのか。

まず頭に浮かんだのはアルテミデのA.39。

 

継ぎ目のなく 美しく連続した光 / Artemide A.39

 

直線や決まった円形だけの構成ならDNライティングやフロスのランニングマグネットも良いだろう。

 

ただこの照明を使うにはいくつか問題がある。

 

①「空間が狭い」

この蔵は2階建て24坪の建物で事務所、階段スペースなどがかなりの面積を占めている。そして2階には木造トラスまであるので決まった形の照明を吊るすには支障が多すぎる。動線上に光のラインをつくるにしてもたぶんうまくいかないだろう。

 

②「コストが高い」

アルテミデやフロスのライン照明を使った場合、かなり素敵になるがコストがかかりすぎる。DNライティングにしたところでこの照明費用だけで全体の改装予算を超えてくるだろう。

 

③「納期が長い」

海外のデザイナーズ照明は通常納期が6ヶ月〜8ヶ月である。
店舗は進むスピードが速い。工事期間も1ヶ月ほどで完成してしまう。
大規模な店舗でない限りデザイナーズ照明を使うことは難しい。

 

この問題から導き出した答え、それは照明をつくるしかない。
照明をつくることを考えてデザインをすすめることにした。

ではどんなデザインにするか。
動線に方向性を付けることは決めたが、どんな形にするのか。
直線?曲線?

 

そのヒントととして、改めてこの蔵の歴史を紐解いた。

 

名古屋城築城に伴い、人口河川「堀川」が出来た。この川は船を利用して物資を運ぶ舟運(しょううん)のためであり、この川のおかげで四間道、円頓寺エリアは商人の街として栄えた。物資を収容するために蔵が建ち並ぶこのエリアから考えると、堀川と蔵の密接な関係がよくわかる。

 

 

 

 

     

堀川

 

人や物資を運ぶこの堀川の「川の流れ」を踏襲して、この蔵の中も人を運ぶ動線上に照明で川の流れを造ろうと考えた。

それには3次元にぐにゃぐにゃ曲がるライン照明が必要だ。
この照明を実現させるためには2つポイントがある。

①どんなデザインにするかの全体像をつかむ。
②それを実現できる照明を探す、もしくはつくる。


まずはいろいろな制約を一旦横に置き、照明とキッチンの配置を数パターン考えていった。

 

 

 

 

 

    

    左にキッチン案

 

 

 

 

    右にキッチン案

 

 

 

 

 

    正面にキッチン案

 

様々な案をクライアントと一緒に比較しながら検討していった。
ここで私が重要視していること。
それはこちらから提示するだけではなく、一緒に考え造り上げるというスタンスだ。オフィスや店舗については特に意識している。



それはなぜか。



いわゆる他とは違った空間というのは、インパクトはあるが使いこなせないことが多い。与えられたものを使うのはシンプルでなければ思考が止まる。
デザインというものはポジティブにもネガティブにもなるということだ。

特にオフィスや店舗は考えの違う不特定多数のスタッフが常駐する。
その方々が愛着を持って大切に使わなければ魅力が発揮できない。
その観点からできるだけデザインに参加してもらって一緒に造り上げることによって空間の意味を理解し、愛着のある場としてもらう。

これは建築物の規模、種類、存在意義によって変わるので一概に良い方法とは言えないが、「他とは違うオフィス、店舗」ということで言えば良い方法なのではと思う。

キッチンに関しては階段を上ってすぐ全体を認識できる正面奥に配置することになった。

次に照明のデザイン。
1階から2階へ行くライン照明は割とすんなり計画できた。

 

 

 

 

    道路から1階までのライン照明

 

 

 

 

 

    1階から2階へ上がるライン照明

 

問題は2階の照明だ。
川の流れを表現しながら空間を邪魔しないためにはどういう形状が良いか様々なパターンを検討した。

 

 

 

 

    波の揺らめきを単独の照明で表現

 

 

 

 

    水の渦を終着点として表現

 

 

 

 

    緩やかな川の流れを表現

 

 

 

 

 

    川の流れを波状として表現

 

そしてバランスを整えながら最終的に一つの照明案に決定した。

 

 

 

 

    緩やかな川の流れを表現してキッチンへ向かうライン照明

 

次にこの照明をよりブラッシュアップするために、照明の廻りの空間をどうするか考える。

一つは壁面のミラー張り。
空間が狭いことをカバーする点、照明のボリュームを鏡に映して幻想的にする点で効果を発揮すると考えた。

ただこのミラーについてもコストと納期の問題は付いてまわる。
ある程度の規格寸法900㎜×1800㎜以下のミラーで構成することにした。
予算があり、納期もあれば出来るだけ継ぎ目が無く、床から梁下までのH2400㎜ミラーを採用したいが、コストが一気に上がり、また長納期になるため間に合わない。
新築と改装の違いは常にこういうところが関係するので注意が必要だ。
またクライアントから収納の什器も置きたいと要望をもらったため、少しだけトレンドを入れながら空間に溶け込むR型収納什器を提案した。
これもリブで仕上げることにより少しだけ個性を出した。
これも少しだけのデザイン。

 

 

ここで一つ意匠的にネックなことがある。
階段上にある誘導灯だ・・・

vol.04へ続く

 

CONTACT