2025/06/25
オーダーキッチンSRのデザイン(計画編vol.4/4)【建築家の頭の断面図2025】
川の流れを表現したライン照明案が完成した。
ここで一つ意匠的に問題がある。
階段上の誘導灯だ。
消防法として誘導灯は必ず必要であり、位置もほぼ決まってくる。
クライアントからこの誘導灯をどうにかしてほしいと要望をもらった。
そこで誘導灯の機能を確保しつつ、なにかデザインできないかを検討するため、管轄の消防署と打ち合わせをした。
結論として誘導灯の表示面を隠さないカバーの取りつけは認められたため、
この緑の人型に連動した照明BOXを造ることにした。
あくまで全国でOKかというと地方自治体によるとのことだったので、参考にされる方は管轄の消防署と打ち合わせをされることをお勧めする。
デザイン案としてはヌケ感のデザインとして色々提示した。
誘導灯カバーデザイン案抜粋
打合せは楽しい方がいい。
クライアントも楽しみ、私も楽しむ。
そうすると様々なアイデアが生まれてくる。
誘導灯カバーの提案をする中でワンちゃんとの散歩に反応された。
クライアント自身が2匹のイタリアングレーハウンドを飼っているとのことで、それを誘導灯カバーのデザインにしたいと要望を受けた。
このデザインに違和感をおぼえる人もいるだろう。
なんで犬?と思う顧客もいるかもしれない。
ただもし自分のオフィスに自分の愛着のあるデザインが入ると、少しだけ気持ちが上がると思う。これは働き手のモチベーション向上の話だ。
社員満足度が高まり、顧客満足度に繋がる。
全てをきれいに洗練させなくても、こういった「ヌケ感」に愛着をもってもらうことが、建築のおもしろさだと思う。
イタリアングレーハウンドと遊ぶクライアント
完成したら是非見てほしいディテールの一つだ。
続いて1階についてはスペースがあまりない。
1階ホール
リビングとしての空間デザインにしては狭すぎるため、当初はダイニングテーブルを置いてフリーアドレスとしてスタッフが仕事できる場を設けようということで進んでいた。
ただ何度か打ち合わせを進めていくうちに、キッチンだけではなく他の造作家具も造りたいとの要望が出てきた。
オーダーキッチンが造れるならオーダー洗面や収納家具、TVボードなども簡単につくれるわけなので、造作家具も提案できるようにしたいとのことだ。
多くの人はキッチン屋さんはキッチンのみという思考が強いが冷静に考えればキッチンという毎日激しく使う家具を造れるのであれば、他の家具も難なく造れることはあたりまえだ。
ということで話し合いの結果、TVボードを造ることにした。
ハイエンド層が喜ぶTVボードとしてTVの前にミラースクリーンを設置したTVボードである。
造作TVボード
今回は空間デザインだけではなく、什器関係「キッチン」「造作収納」「造作TVボード」「ダイニングテーブル」「トイレ手洗い」の基本デザインまでやらさせていただいた。
もちろんディテール設計については製作するクライアントと一緒に作っている。
この一緒に考えるということが、「人」「製造」「コスト」「デザイン(商品)」の「デザイン」を向上させるために有効だったのではと思う。
オーダーキッチンブランドにはディレクター、プランナーは多くいるが、キッチンデザイナーという人は非常に少ない業界だ。
このデザイナーという役割を明確に位置付けて、機能だけではなく意匠もこだわることで日本のラグジュアリーキッチンブランドが多く生み出されると思う。
それが結果的に建築空間との調和を生み、よりよい建築物ができるのではと考えている。
さて照明、内装の大方のデザインが決まったところで一番重要なこと、「川の流れのようなライン照明」をどうやってつくるかだ。
いろいろな照明業者と相談するなかで、クライアントからイルミネーションやディスプレイ照明をやっている企業とつながりがあると聞いた。
クライアントと一緒にその企業に訪問したところ、3次元にぐにゃぐにゃ曲がる照明を発見して、これなら思い描く照明ができると確信した。
ライン照明
その企業の方と相談する中で、どのように照明を吊るのか、ライン照明をどうつなげるかのディテール打ち合わせをしながら、モノの選定は以外にも簡単に終わった。
ただこの照明の難しいところは現場にある。
いくらパースで事前想定したところで、インパクトの強い蔵の内装と空間の狭さを100%とらえきることができない。
これが新築と違うところだ。
「現場でどこに吊るしてどう曲げるか」
これがこのプロジェクトで一番重要になることは明らかだったので、この照明屋さんとクライアントには、ものすごい手間がかかり、わがままを言って何度もやり直しをすると思うが現場でのデザインを一緒に協力してほしいと約束をした。
少なすぎるとチープになり、多すぎるとうるさくなる。
特に2階の床は補強が必要なので床上げが必要、そのため木造トラスの下端から床まで2200㎜しかない。
かなり圧迫感がある。
その中で川の流れを表現するので難題であることは間違いない。
ただこれが成功したら他にはない空間にまで昇華できると思う。
これは私自身の挑戦でもあると感じた。
いかにそぎ落とすか、またそぎ落としすぎて平凡な空間にさせないかという対極の考え方の着地点を3日間で完成させる。
しかも工事段取り上、キッチン等の什器が付かない状態での施工になりそうなので視覚と創造力をフル回転させながら進める。
こういう瞬間は多々ある。
例えばコンブチャ専門店「コンブッカ」の洞窟カウンターを施工した時。
アラベスク柄の模様をいかに削るかでやすりをもちながら現場監督と二人でひたすら壁と天井をこすった。
造形を削る
この時もものすごく手間がかかったが、納得するまで永遠にやったことでちゃんと世間から評価される空間となった。
デザインに必要なもの
それは「執念」なのかもしれない。
今回のオーダーキッチンショールームもひとつ間違えれば「too much」になるかもしれない。
ただそぎ落とすだけなら多くのデザイナーが出来ると思う。
設計事務所に依頼する意味
それは3Dの空間力と2D平面力を融合した空間にしたいからだと感じる。
計画が終わりいよいよ着工。
良い空間になるように最後まで粘っていこう。
ー計画編 おわりー